平成21年度(第1年度)は、主に、2009年5月制定の会計法現代化法(BilMoG)による制度変化の分析、ならびにドイツ企業の国際財務報告基準(IFRS)準拠の連結財務諸表とドイツ基準準拠の個別財務諸表の分析を行った。その成果は、以下の点に要約できる。 1. IFRSへの対応を行った近年の会計制度改革を通じて、商法典(HGB)、所得税法、取引所法といったドイツの企業会計法の法律間の関係が徐々に変化しつつある。 2. BilMoGによる1985年以来のHGB大改正を通じてもなお、投資意思決定を目的としたIFRSと債権者保護を目的としたHGBの会計規定間には、会計目的の相違に基づく本質的な相違が存在している。 3. ドイツ会計制度では、連結財務諸表において従うべき基準としてIASBによって作成・公表されたIFRS(IASB-IFRS)とは異なったEUにおいて承認されたIFRS(EU-IFRS)が導入されているが、実務においては、IASB-IFRSとEU-IFRSとに同時に従う「二重準拠」の財務諸表を作成するケースが多くみられる。 4. ドイツ会計制度では、IFRSが連結および個別財務諸表における情報提供機能を果たす会計基準として受容されているが、実務においては、多くの場合、IFRSが個別財務諸表の情報提供機能を果たす基準として選択されていない。 5. 日本においても、会計の果たす情報提供機能、とりわけ投資家への(投資意思決定のための)情報提供とそれ以外の利害関係者への情報提供の果たす機能を、連結財務諸表と個別財務諸表とを区分したうえで、企業会計法との関わりのなかで再検討する必要性がある。
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