平成22年度は、経済産業省、企業会計基準委員会(ASBJ)、日本公認会計士協会などのアクターが個別財務諸表に関する報告書を公表するなど、日本において連単分離問題についての新たな展開が見られたため、追加的な資料収集、情報収集、調査を行い、前年度の分析の補強と新たな分析を行った。また、平成22年度は、DRSCが国際的舞台においてドイツの意見を反映させようとしている会計項目は何か、またそれはどのように行われているのかを中心に検討した。その成果と課題は、以下の点に要約できる。 (1)連単分離が困難な会計処理項目を分析することを目的として、ドイツ会計基準委員会(DRSC)と欧州財務報告アドバイザリーグループ(EFRAG)が共同で公表した「収益認識」、「負債と資本の区分」に関する討議資料を取り上げ分析を行った。両者の分析から、連単分離の問題は、個別な会計問題の相違よりもむしろ、概念フレームワークの相違の影響を色濃く受けているとの結論を得た。 (2)昨年度検討したように、連単問題は会社法、税法との関連において捉えられる必要性があるが、さらに中小企業との関わりにおいても検討する必要性が認識されたため、ドイツにおける中小企業に対する会計基準のあり方についての議論についても今後の検討課題に加えることとする。 (3)ASBJの議論では、開発費、のれん、退職給付、包括利益といった論点が連単分離に際して問題となる会計処理項目として取り上げられている。これらの論点については、日独比較を行う来年度に具体的な検討を行う。 連単問題についての制度的対応の急速な展開が見られることから問題の緊急性が明らかとなり、分析が進行するにつれて問題領域が広範なものとなってきたことから問題の複雑性が明らかとなった。
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