研究概要 |
本研究の目的は,コーポレート・ガバナンスを構築する上で,財務諸表監査がどういう位置づけにあるかを検証することにある。あわせて,昨今の財務諸表監査制度の改正についても踏み込んだ考察を行う。 本年度は,まず日本市場において財務諸表監査が機能しているかを検証した。とりわけ監査人のレピュテーションの喪失によって,クライアントの株価が有意に下落するかどうかを調査した。また本年度は,主要な先行研究の精読を行うとともに,随時,最新の研究にも接し,文献収集に努めた。 とくに本年度は,主に先行研究で用いられたモデルを用い,日本市場でどういった結果となるか追試するとともに,マーケットに対しネガティブな情報が流出した日本独自のイベント日を特定した。これらの準備をした後,株価データを用い,調査対象監査法人のクライアント(東証一部上場)の累積異常リターン(CAR)を日次で算出している。 その結果,先行研究と同様に,監査人の不祥事によって,そのクライアントのCARは有意に低下することとなった。その影響は,不祥事を起こした監査人のクライアントのみにとどまらず,監査人の属する監査法人,さらには監査市場全体にまで有意に低下する結果となった。したがって,こういった結果から監査人のレピュテーション,ひいては監査法人,監査市場のレピュテーションについて,市場が認識していると解釈することができる点を明らかにした。 以上の調査結果を,ヨーロッパ会計学会やアメリカ会計学会において報告した。
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