本研究の目的は、監査人が企業の有しているリスクをどのように有効に識別、評価してリスクに対応するのかについて、不正リスクの評価を細分化して捉えることにより、理論的かつ実証的に解明することにある。 近年、上場企業において、例えば業績へのプレッシャーにつながる企業風土などが原因と考えられる不正行為など、粉飾事例が依然として多発している。不正による重要な虚偽表示を財務諸表の監査の枠内で発見することは、監査の主目標の1つであり、不正リスクを識別、評価し、そのリスクに応じて適切な監査手続を決定することは、監査人の重要な判断事項である。しかし、当該リスクの有効な識別・評価の方法は解明されているとはいえず、また、評価したリスクにいかに対応するのかについての監査判断は、わが国ではどちらかといえばブラック・ボックスとなっている。 企業の不正リスクを評価するためには、不正に関与しようとする動機やプレッシャーの存在を示す事象、不正を実行する機会を与える状況の3条件を識別し評価する。しかし、多くの事象や状況を網羅的に検証し、単に個々の要因の有無やリスクの大小を検討するだけでは、監査を有効に実施することにはならず、監査資源の投入量を増加させ、コストが許容範囲を超えることにもなりかねない。不正リスクの評価は外的基準がなく直接測定できない概念であるが、上記の3条件に焦点を置き、不正リスクの評価を定式化する特徴を捉え、監査人の判断形成を客観化し改善する手がかりを得ることを目指した。 そこで本年度は、不正リスクの評価を行うにあたり、監査人がどのように企業の有する潜在的なリスクを識別し評価しているのかについて文献研究を網羅的に行い、不正リスクの概念を構築するにあたっての理論研究を行った。これは、現実にいかなる評価が行われているのかを解明するための基礎となる。
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