研究概要 |
現在からおよそ35年前にスタートした国際会計基準(IAS)は,当初はさほど注目されてはいなったものの,国際財務報告基準(IFRS)として世界的に広く普及するに至った。現在,IFRSのメインユーザーはEUであるが,必ずしもEUにおける会計基準がIFRSにより一元化しているわけではない。ドイツにおいてはHGBが,フランスにおいてはPCGが,いずれも国内基準として存続しており,同時に課税所得計算の出発点となっている。これと異なる動向にあるのがイギリスであり,FRSが国内基準として存続しているものの,IFRSによる利益を課税所得計算の基礎とすることが認められている。もっとも.この状況の背景には,FRSそれ自体がIFRSと同様の内容を有するに至り,特にここ数年の間に公表された基準は,基本的に全く同一の内容となっていることから,IFRSを課税所得計算の基礎とすることに,実務上の大きな支障はない。日本は,伝統的にトライアングル体制と呼ばれる,制度会計間の関係が構築されている。IFRSの導入(コンバージェンス)の流れは,いうまでもなく金融商品取引法会計の領域におけるものであるが,会社法会計は内容的には金融商品取引法に依存する部分が多く,両者は実質的に一元化しているとも言われている。この背景には,会社法会計の志向の変化を指摘することができる。元来,債権者保護を志向する会社法会計と,投資家保護を志向する金融商品取引法との間には,算出利益の質が異なるのであるが,両者間での調整を繰り返してきた経緯がある。しかし,債権者の求めに応ずる利益情報は,今日では金融商品取引法のそれと近似するものとなっている。しかし,ここにこそトライアングル体制の今後を占う理論的問題点が潜在しているように思われる。
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