本研究の目的は、会計情報に関する価値関連性研究の一環として、利益のボラティリティに注目して会計利益の価値関連性の源泉を探求することであった。前年度の研究成果を踏まえ、当年度は利益のボラティリティ、ひいては利益の質に影響を与えうる企業のガバナンス構造に注目して研究を行った。特に、当年は(1)同族企業と非同族企業の利益の質の差異、(2)社外取締役の専門性と利益の質の関係について研究を行った。 (1)については、同族企業の利益の質は、アブノーマル・アクルーアルズや利益の持続性に関して非同族企業に比べて高いことが確認された。同族企業は、外部の利害関係者から質の高い利益情報の公表を求められるとともに、自らも質の高い利益情報を公表することで利害関係者とのアラインメントを構築することが確認された。また、子孫への事業の継承が非常に大きな意味を持つことから、利益を含めた会計情報のボラティリティを小さくするインセンティブを持つ可能性も明らかになった。同族企業の研究は、会計の分野において日本ではあまり進んでいないという意味において、本研究は一定の新規性を有すると考えられる。 (2)については、社外取締役の存在は利益の質にポジティブな影響を与え、社外取締役が会計、ファイナンス、ならびに法律など、堅牢な内部統制の構築に資する専門性を有する方が、その影響は大きいとする仮説を設定して分析を行った。しかし、分析の結果、社外取締役は利益の質にネガティブな影響を与え、社外取締役の専門性は利益の質とは無関係であるとの結果を得た。日本は取締役会と監査役会を柱としたアメリカと異なるガバナンス制度を有する一方、日本でも有効に機能することを前提として社外取締役制度が導入されている。しかし、本研究では、社外取締役が有効に機能していないことが明らかとなった。この結果は、今後の制度設計に対しても一定のインパクトを持つと考えらえる。
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