研究概要 |
株式会社バッファローを対象としてケース研究によって,新製品開発における製品ロードマップが,環境変化に対する柔軟な資源配分を可能にしている一方で,予算は診断型の会計コントロールとして利用されるため,当初は予算と整合的であったものが,時間の経過とともに予算と製品ロードマップの間にずれが生じていく。そのさまを個別具体的な事例から明らかにした。それは,時間の流れから考えると,予算管理が日常のルーティンに一定のリズムを与え続けるのに対し,当初は予算に調和する形であった製品ロードマップが,環境変化に対応することで,主として新製品開発に遅れが生じ,予算のリズムとは調和せず,ルーティンのリズムが崩れると理解される。そして,そのリズムを取り戻すために,製品イノベーションが起こるのである。 これらの経験的事実を実践論的研究として,観察するために,研究方法論についても検討を行った。管理会計分野では近年,アクターネットワーク理論やシャツキの実践理論が援用されることが多いが,そんななかエスノメソドロジーの可能性を探求した。そして,エスノメソドロジーの「行為の連続性」という観点が,上述の事例を捉えることを可能にし,管理会計研究に新たな知見を与えうることを確認した。また定性的研究で得られた知見をもとに定量的分析を検討することでその統合可能性を探ることができた。 また,「戦略化(strategizing)」をイノベーションの一つとして捉え,イノベーションにおける管理会計の役割がどのように論じられてきたのかについて,文献研究を行った。そこでは,マネジメント・コントロール・システム間の緊張関係がイノベーションを引き起こすという研究が近年なされていること,管理会計計算の間の緊張関係がイノベーションを生み出すこと,そして管理会計が戦略を形成するうえで枠組みを提示することが先行研究から明らかになった。
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