研究概要 |
本研究は1664年にロンドン東インド会社へと導入された複式簿記の目的,機能について,当時の会計帳簿などを利用した実証分析を行うことによって,明らかにすることを目的としている。そのため,本年度は,(1)東インド会社に関連する史料収集と,(2)史料に基づき複式簿記の導入目的について基礎的な検討を主とした。(1)については,当時の史料が所蔵される大英図書館にCDへの複写依頼を行い,CDを手に入れた。手に入れた史料は,複式簿記導入をめぐる理事会の協議内容,複式簿記導入に関する最終草案と,会計帳簿(元帳,仕訳帳,現金仕訳帳)である。これらの史料に記された情報を整理する作業を進めてきた。(2)については,複式簿記の導入目的について,一部の会計帳簿などに記された商品勘定の分析を行い,売残商品の評価方法の考察という視点から検討を試みた。これは,評価方法と売上原価の算定との関係,あるいは,評価替えの結果,増加する商品評価額の意味合いや評価替えにより生じる損益と配当との関係にアプローチすることで,複式簿記の目的として損益計算,あるいは財産計算に重きが置かれているのかを検討するための1つの指標になると考えたからである。この研究成果として,9月に日本会計研究学会において研究報告を行い,これを現在,論文として印刷中である。ただし,入手した多くの史料の考察がまだ途中であることから,平成22年度の課題として,最終草案,議事録,そして会計帳簿の考察を行い,上述した検討結果もあわせた複合的な観点から,複式簿記の目的を明らかにするつもりである。これに加え,最終草案に示された簿記技術が,実際に会計帳簿に反映されているのか,つまり導入目的が遂行されているのかということも検討して,東インド会社における複式簿記の機能についても考察を進める予定である。
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