研究概要 |
最終年度は,1664年にロンドン東インド会社に導入された複式簿記の目的ならびにその機能を検討する上で,ロンドンの大英図書館に所蔵される最古の元帳B(1664-1669年)から1700年前後まで現存する会計帳簿(元帳,仕訳帳)及び,複式簿記導入に関する議事録などを複写した史料,ならびに当時同社が直面した経済的,社会的環境などを中心に考察を行った。初年度に実施した基礎的な検討に加え,1664年の複式簿記導入をめぐる理事会の決議,複式簿記導入に関して提出された最終草案,およびそのときの会計帳簿などを中心に考察した。会計帳簿の検討に関しては,主に勘定組織および帳簿組織の観点の他に,複式簿記の持つ機能,つまり損益計算機能および財産計算機能の観点からアプローチを試みた。とりわけ商品の棚卸評価の問題にも着目して,期末商品が売価評価される意味と複式簿記の損益計算機能との関連も『會計』誌上ならびに所属大学の紀要で論じた。 具体的には,棚卸商品の評価方法と売上原価の算定との関係,あるいは評価替えの結果,増加する商品評価額の意味合いや評価替えにより生じる損益と配当との関係,つまり配当可能利益の計算などから検討することで,複式簿記の目的を考える上での検討材料とした。なお,その過程で,個別の商品勘定,人名勘定,私貿易勘定をはじめ,資本勘定,残高勘定,損益勘定,さらには同社を取り巻く経済的,社会的環境として当時の貿易状況,法律の制定,同社が直面した英蘭戦争,出資者の構成なども取り上げて考察している。一連の考察の結果,同社ではこの当時,複式簿記の持つ損益計算機能よりも,むしろ財産計算機能を重視して,その導入が行われたことが考えられた。
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