今日の危機的な農業情勢の下で、日本の農家はどのような存続戦略をもち、生産・生活基盤を充実させているのか、また「村」が地域連携にどのようにかかわっているのか、という問題関心に即して、本年度は、愛知県弥富市と山形県東根市の農村地域における「家と村」の歴史的変遷について焦点をしぼり、実証研究を行った。具体的には、前年度の研究成果を踏まえて、調査資料の収集と解析を精力的に行うとともに、家の存続戦略に長けている地区のリーダー的農家を選出し、詳細なインタビュー調査を実施した。さらに、東北地方の米単作地帯である山形県酒田市を、前述した二地域の比較対象として新たに取り入れ、概況調査、資料収集と分析、さらに地域のリーダー的存在である農民に対するインタビュー調査を実施した。その結果、弥富市と東根市の特質を浮かび上がらせる第三の地域として類型化できることが確認された。 今年度は、それらの研究成果の一部を、第83回日本社会学会大会一般研究報告農山漁村部会において、「昭和前期東北地方における開拓農家の存立と問題解決の共同性-山形県東根市若木地区を事例として-」というタイトルのもと、報告を行った。これによって、東北地方における開拓農家の「個と共同性」の関係が明らかになり、今日の農村像に連なる昭和前期の地域社会構造の一端が示された。 以上により、市場原理に対応する個別農家の存続戦略と地域連携体としての「村」の特質を実証的に示す、重要な足掛かりを得ることができた。
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