研究概要 |
Breen et al(2009)がヨーロッパ各地で観察してきた「大学進学率上昇に伴う,出身階層間の教育達成格差の縮小」という現象が,出身階層間の学力分布の違いによって生じることを数学的に証明した.このモデルは,大学入試が制度化されている社会では,大学入学定員の増加によって,大学入学者の学力が低下すると,学力分布の形状によって必然的に,出身階層間の教育達成格差が縮小することを示している.またこのことが,Breen-Goldthorpeが提唱する「相対リスク回避仮説」と同時に成立することを数値計算によって示し,第50回数理社会学会大会(2010年9月10日)にて報告した.この他に,浜田・七條(2010)では,相対的剥奪が複数の属性の異なる集団間で,客観的な報償密度の変化に対応してどのように変化するのかを数理モデルによって明らかにした.非自明なインプリケーションとして,分布の形に依存せずに,相対的剥奪割合が報償密度の増加関数となる領域と減少関数になることを一般的な条件の下で証明した.またアメリカ兵データで示された「昇進したにもかかわらず,不満を持つ兵士の割合が,客観的昇進率の高い集団に於いて,低い」という逆説的事実が,モデルから説明可能であることを示した.その他には,N人集団における囚人のジレンマのランダムマッチングによる繰り返しに於いて,タグに基づく協調がどのような条件の下で安定となるかをシミュレーションによる数値計算をもとに,レプリケータダイナミクスで一般化する研究を進めている.この研究により,階層的多様性と協力という一見すると相反する集団の特性と行為が,理論的に説明することを目指している.
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