平成21年度の研究成果としては、論文3本と学会や研究会での報告・講演がいくつか挙げられる。まず論文「戦争とメディア(1)-メディア論講義ノートから」(『社会学ジャーナル』33号)において、各種の情報メディアとの絡みで、第二次世界大戦以降の総力戦(冷戦)における「戦争体験」を考える理論的手がかりが得られた。日本マス・コミュニケーション学会の大会シンポジウムに登壇することで、それをもとに特に日本社会という文脈について考える機会を与えられ、「戦後史」(の終わり)をテーマにした論文「「戦後」意識と「昭和」の歴史化」(『マス・コミュニケーション研究』76号)を執筆した。一方でそれは、論文「歴史に向き合う社会学-資料と記述をめぐる多様なアプローチにみる可能性」(『年報社会学論集』22号)という大きな問題を考えるきっかけにもなった。甲南大学人間科学研究所で企画されたシンポジウム「心の危機と臨床の知-戦争体験の記憶と語り」で指定討論者として、同研究所「加害-被害関係の多角的研究」研究会では報告者として、それぞれ戦争体験や戦争の記憶の研究をめぐって浮かび上がってきた様々な現代的な問題について(特に前者では一般市民も聴衆にまざりながら)報告した。 また、「戦争体験文庫」を設置し、精力的に全国から戦争体験記や各種の記録・文献を収集している奈良県立図書情報館を訪問し、文献調査を行ったとともに、スタッフの方2名にインタビューをすることで、自費出版も含めた戦争体験記・自分史などの置かれている状況を、図書館・文書館側の立場から明らかにすることができた。こちらはまだ論文としてまとまってはいないが、追加調査も踏まえて、早めに公表する予定である。
|