本年度は主として、1968年の施政権返還後の小笠原諸島・硫黄諸島の旧島民をめぐる状況について検討を行った。1968年以降、狭義の小笠原諸島(父島および母島)の旧島民には段階的に帰島が許された。だが日本政府・防衛庁は、米空軍が撤退した硫黄島に海上自衛隊・航空自衛隊を駐屯させ始め、米国沿岸警備隊にも引き続き駐留を認めるいっぽう、自衛外が駐屯しなかった北硫黄島を含む硫黄諸島を、小笠原諸島復興特別措置法に基づく復興計画から除外して、事実上民間人の居住を拒んだのである。硫黄諸島旧島民は、「火山活動」や「不発弾の残存」を表向きの理由に、現在に至るまで帰島が許されていない。また、小笠原諸島の旧島民のなかにも帰島を選択しなかった人たちが少なくない。 本年度のインタヴュー調査は、関東地方に在住する硫黄諸島旧島民3名に対して実施した。とりわけ、施政権返還後に硫黄諸島旧島民有志によって結成された硫黄島帰島促進協議会の運動、その他の旧島民有志による同郷団体の活動、施政権返還後現在までの生活状況、帰島希望に関する意識過程などについて、重点的な聞き取りを行った。 文献資料調査に関しては、従来に引き続き、国立国会図書館、国立公文書館、東京都立図書館などが所蔵する一次資料の収集・分析を実施した。 また上記の調査成果の一部を取り入れつつ、自編著『戦争社会学の構想――制度・体験・メディア』(福間・野上・蘭・石原編、勉誠出版、2013年7月刊行予定)に論文「帝国と冷戦の<捨て石>にされた島々――戦場から基地化・難民化へ」を執筆した。
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