本研究の二つの柱となる「1.教育・雇用・社会保障制度の比較分析」と「2.教育・雇用・社会保障制度の特徴を考慮した計量的な社会階層分析」のうち、まず後者に関しては、2005年SSM調査の日本・韓国・台湾データ等の比較分析をインテンシブに行い、それぞれの社会の階層構造の特徴究明を試みた。この結果、日本では企業規模・雇用形態、ならびに年齢が個人の社会経済的地位に与える影響が大きく、これらの作用を形作る雇用制度への着目が必要である一方、韓国では個人の学歴効果が大きく、教育と仕事・報酬を結び付ける制度的条件が特に重要であること等が明らかになった。一方、台湾ではこれらの効果は全般的に弱い反面、職種の効果が卓越しているなど、報酬配分における市場メカニズムの強さが示唆された。このような比較計量分析により、各社会の階層構造の特徴が明確な形で示され、また今後着目すべき制度的条件の所在が明らかになったものと評価されうる。 一方「1.制度の比較分析」に関しては、以上の知見をふまえつつ、先行研究の整理と韓国・台湾において行った資料調査・聞き取り調査を通じて、高等教育と学校から仕事への移行に関する諸制度、ならびに年功制や雇用形態区分など、労働市場制度の比較検討を進めた。これらを通じ、重点的に検討すべき制度の絞り込みが可能となり、今後の研究の方向性を固めることができた。さらに、これらを通じ、「制度と市場の相互関係とそれが報酬配分にもたらす影響」について理論的な観点からの検討を並行して行う必要があることも明らかになった。
|