本研究課題においては、政策による社会の開放性への影響に焦点を絞り、計量社会学的研究を構想することを目的とする。4年度計画の初年度にあたる平成21年度は、研究体制の確立に向けて、物的な基盤と研究資料の収集をおこなうことが中心となった。 既に入手・加工された個票データの予備的な分析に基づいて、成果を国内外の学会大会等で口頭報告したほか、雑誌論文にて発表した。 それらの知見を整理すると、世代間移動および世代内移動のメカニズムの構造的変化を探った。結果として、以下の諸点が明らかにされた。第1に、世代間移動については移動構造の安定性という普遍的傾向が再確認された。第2に、世代内移動については、近年にキャリアの流動化という時代的影響を受けて、移動経路の変化と解釈されうる結果を得た。社会移動の変化の焦点が自営業であることが見出されたため、自営業の開業と継承のメカニズムを解析したところ、自営業は世代間再生産傾向の強い階層だが新規開業にはそれはあてはまらないこと、新規開業には情報源となる友人との社会的ネットワークが促進要因となること、ネットワークの効果は男性のみに現れることなどが明らかにされた。従来、回顧的な情報によって析出されていた社会的ネットワークの効果が、日本全国を対象とした良質なパネルデータによっても裏付けられたことは、本研究分野の実証的成果の確かさをより高めるものとなった。 今後は、社会的ネットワーク形成を促進しうる政策の比較酌量と、ネットワーク以外の要因の検討、効果の制度比較を可能にする国際比較分析の展開が課題となる。
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