本年度は、研究計画全体の中において中間にあたり、予備的な分析結果やさまざまな経験的データの二次分析結果を中心に、報告と執筆をおこなった。 その中心に位置付けられるのは、世代間社会移動研究である。伝統的に、世代間移動は、社会の開放性というテーマときわめて密接な研究課題として知られる。後発産業社会までを射程に入れた国際比較と、最近のコーホートまで含めた趨勢分析をおこない、国際学会での報告、国内学会のテーマセッションでの報告、報告書での英文論文執筆、近刊図書の執筆に活かされた。それらの成果を要約すると、1)日本の世代間移動機会は長期的にも短期的にも安定的な趨勢であった(開放性は変わらない)、2)ただし近年のコーホートにおいて入職時にみられる出身階層の影響はやや弱まっている、3)一方で入職後のキャリア移動のチャンスに出身階層の影響が強まり、結果的に移動の平等化効果は相殺される、4)世代間移動のパターンは後発産業社会でも先進国のそれとだいたい類似している、5)世代間移動のレベル(流動性ないし開放性)については国・地域間で変動があるがそれを体系的に説明できる社会的要因は見出し難い、などの知見が得られた。 また、移動のプロセスを個人のキャリアのデータから抽出し、縦断的解析を試みた。その結果、1)友人との社会的ネットワークが自営業への移動を促進する、2)親が自営業であった場合でも新規開業の確率には影響が見られない(再生産はもっぱら事業継承が中心)、3)小規模企業への勤務は女性のキャリアを流動的にする、4)女性の正社員への再就職(無職からの移動)において小企業勤務経験はプラスに作用する、などの知見が得られた。 これらは断片的な結果にとどまるものの、今後の分析結果を加えつつ総合的に考察することで、社会の開放性の構造と過程のありようと意味を考究する成果とする。
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