本年度は、研究計画全体の中において最終年度であたる。これまで同様にデータの収集と加工を継続していったのに加え、分析結果の整理と議論を集中的に進め、成果を報告した。成果として、国内外における学会での複数回の報告と、書籍所収の論考や論文として公表された。 国際比較調査として名高いISSPデータセットの二次分析により、福祉政策類型と社会の開放性とのあいだの関連について、新たな知見が得られた。従来の研究によれば、社会民主主義的福祉レジームやポスト社会主義国で、社会移動の開放性が高いとされていた。だがそれは、後発産業化と呼ぶべき発展過程のインパクトと交絡しており、産業化時期と農業再生産にみられる特殊性を統制すると、福祉政策類型による開放性の関連のうち、大部分が消えてしまった。したがって、産業化、政策、機会構造そして個人の移動という要素間の関係性をより詳細に解明していく必要があるといえる。 また、本年度新たにに新境地として挑んだのは、パネル調査データの収集と分析によるアプローチであった。我が国の社会学においては、国際的にみて、また他の調査法に比して、パネル調査の実施およびその分析は、これまで立ち遅れていた。近年では、利用可能なパネル調査データが増加してきた状況に鑑みて、それらへの積極的なアクセスとともに、社会の開放性やライフコースでの達成機会を測るという目的に符合するデータについては分析を進めた。 その結果、単身の未婚者に関して、結婚を避けていくように意識変容をする特異な層が潜在的に存在することを発見した。さらには、しばしばパネル調査データの分析では、それに特有の脱落による偏りが懸念されるが、ウェイト変数の適切な利用によって、かなりの程度補正されうることも示された。
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