本研究の目的は、国際移民の社会経済的地位上昇の可能性を日系ブラジル人の事例にもとづいて明らかにすることにある。本科研の申請と前後して、2008年後半から2009年前半にかけて、製造業を中心に大規模な景気後退の中、多くのブラジル人が職を失った。本研究は、国際移民の社会経済的地位上昇の可能性を明らかにすることに主眼があるものの、近年の景気後退が、日系ブラジル人の経済状況にいかなる影響を及ぼしているかを明らかにすることは、本来の研究目的と関連する極めて重要な研究課題である。そのため、今年度は、静岡県庁からの委託調査の形式で、静岡県全域でブラジル、ペルー、中国、韓国・朝鮮、フィリピン、ベトナム、インドネシア国籍を有する人たちを対象に、質問紙調査を実施した。調査は当該言語に翻訳して行われ、外国人登録から対象者を無作為に抽出し、最終的に2183の有効回答を得た。本年度は、この調査の実施、データクリーニング、基礎集計を中心に行った。あわせて、浜松市と静岡市で、自治体、国際交流協会、ハローワーク、外国人を派遣する派遣業者を対象に、インタビュー調査を実施した。インタビュー調査では、おもに、景気後退下での外国人労働者の動向と、それに対する対策について、お話をうかがった。本年度は、調査の初年度ということもあり、こうした情報収集作業に主眼を置いた。 加えて、2007年に静岡県が実施した外国人労働生活実態調査のデータを用いた分析も進めた。日系ブラジル人の所得決定構造が、日本人とどのように異なるかを検討し、その成果の一部を国際学会で報告した。また、国際移民の階層構造を明らかにする観点から、移民の状況が、子どもたちにどう影響するかについても分析を進め、国際学会で中間報告を行った。
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