本研究は、フランスにおける「アフリカ系」女性移住者の滞在資格獲得と行為者としての社会編入過程を分析し、女性移住者の地位向上戦略を明らかにすることを目的とする。フランスでは、2006年以降に制限的な新移民法が施行され、家族統合の制限や超過滞在者の正規化の制限など、移民の権利の後退が危惧される。また「アフリカ系」移民の存在は、量的・質的に重要度を増している。 本年度は移民の地位をめぐる議論について、社会学文献の収集、分析を中心に行った。2009年には、イスラム教徒女性が全身を覆う「ブルカ」を着用していることを理由にフランス国籍取得を却下されるなど、イスラム教徒の移民のフランス社会における地位は不安定で、社会的統合が議論されている。このなかで政府は「ナショナル・アイデンティティについての国民的議論」を提起し、左派系政党、移民研究者や移民支援団体等の反発を招いた。「移民はフランスのナショナル・アイデンティティに対する脅威である」という言説は、ヨーロッパ統合を安価な労働力の流入という経済的な脅威として認識する世論を、共通移民政策を模索し始めたヨーロッパの統合は、そうした移民の流入を統制することによってフランスのアイデンティティの砦となる、という認識へ導こうとするものだという分析もある。 このなかで調査先のアフリカ出身女性移住者団体は、フランスにおける女性移住者の社会的・経済的統合の支援に加え、送出国の女性支援に活動を広げている。西アフリカの女性がフランスでスティグマ化される一因となっている「女性性器切除」の根絶のため、フランスの医療系人道団体と協力して現地でキャンペーン活動を行った。この活動は移住女性の「異質性」を強調する議論に対抗するものと捉えることができるが、それが移民の社会統合にどのような効果をもたらすかについて、引き続き調査する必要がある。
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