女性移住者の滞在の地位および社会的権利について、制度上の変更点と市民団体の取り組みを把握し女性移住者団体において参与観察を行うため、パリ市において現地調査を行った。(1)パリ市の男女平等監督機関、(2)難民・移民支援団体La Cimade、ADRIC等で聞き取りを行った。 (1)はパリ市の現社会党政権が創設した男女平等の専門部署で、女性に対する暴力への取り組みに力を入れている。特に移住者家庭の強制結婚に対する啓発を行っている。フランスでは婚姻を執り行うのは地方自治体で、市では各区の議員向けに強制結婚予防の手引き書を配布している。また女性性器切除(FGM)についても2011年にシンポジウムを開き、母子センター(PMI)を中心に市のソーシャル・ワーカーに研修を行うなど、市による取り組みが進んでいることも分かった。(2)への聞き取りでは、FGMからの保護を目的とする庇護権申請について、2000年代に大きな動きがあったことが分かった。2005年の「安全な国リスト」に西アフリカのFGM実践国が入ったが、判例によりこれらの国出身の女性と娘に対しては2003年に新設された「補完的保護」が適応されている。本研究が着目してきた、2007年~2008年の比較的多数の旧植民地出身女性とその娘への「補完的保護」付与は、一連の流れにおいて捉えられることが分かった。ただし従来の難民よりは不安定な地位であり、FGMと女性の滞在資格は、引き続き地位交渉の争点となる。 また調査先の女性移住者団体では、移住者への健康相談会の実施、送出国ではFGM廃止と女性の地位改善に向けた啓発運動を継続している。送出国で児童施設の改修支援を計画し、建設関係の免状を取得した移民家庭の若者を参加させて社会参加を促すとともに、送出国・受入国の交流を目指すトランスナショナルな取り組みを強化している。
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