旧植民地サブサハラ・アフリカ出身の女性移住者らは、「女性性器切除(Female Genital Mutilation :以下FGMと略)」はじめ出身社会の規範的習慣に対抗するとともに、2000年代には受け入れ側の移民政策の厳格化に直面している。そのため市民団体のネットワーク形成により、送出国への人道支援、啓発運動を行っている。2007-2008年には、滞在条件の厳格化により滞在資格を得られない超過滞在の女性のため、調査先団体はFGMからの保護を理由に難民・庇護権申請を行った。聞き取りによるとこの時期、難民資格についての規定改正があり、FGMからの保護を目的とする申請は、難民ではなく「補完的保護」だけを認められることになっていた。この「補完的保護」はごく少数が関係する地位だが、出身社会・受入社会の国境を越え、どちらの国民国家にも帰属しない新たな地位を模索する女性たちが見いだしたトランスナショナルな市民権として捉えられる。
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