本研究の目的は、フランスにおける都市暴動の発生の条件および過程について、通常そうされるように都市社会学の観点から研究するのではなく、集合行為論および社会的排除論の観点から研究することである。都市暴動の発生を失業、貧困、学業不振、劣悪な住環境、差別といった郊外の諸問題によって説明する都市社会学的な研究は、きわめて重要なものではあるが、それだけでは限界がある。なぜなら、それらの問題じたいは、都市暴動が出現し始めた1980年前後から現在にいたるまで一貫して存在するが、都市暴動が頻繁に発生し始めたのは90年代以降だからである。この現象の十全な理解のためには、郊外の諸問題にたいする当事者たちの行為様式の変容という点からも考察しなければならない。 研究初年度である今年度は、1980年前後からの30年におよぶ歴史的経緯をたどりながら、もう一つの集合行為の典型である社会運動との対比をつうじて、郊外の若者が直面する諸問題への異議申し立ての手段が、なぜ社会運動から都市暴動へと変わっていったのかを考察した。フランスのパリにある移民史博物館で資料を収集し、それをもとに、学会や研究会などで報告を行い、その成果を論文にまとめた。この論文は『日仏社会学会年報』に掲載されている。 この研究によって明らかとなったのは、1980年代の様々な試みと成功にもかかわらず、社会運動が「差異と統合」という二つの軸のあいだで運動の方向性を定めることができず、運動主体を効果的に形成できなかったことが、90年代以降の都市暴動の頻発を準備したということである。 次年度は、都市暴動の発生メカニズムを、アメリカやイギリスにおける人種暴動との相違も視野に入れながらさらに詳細に検討するとともに、80年代の社会運動にかかわった人々へのインタビューも試み、郊外における若者たちの集合行為をさらに内在的に理解することに努める予定である。
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