本研究の目的は、フランスにおける都市暴動の発生の条件および過程について、通常そうされるように都市社会学の観点から研究するのではなく、集合行為論および社会的排除論の観点から研究することである。都市暴動の発生を失業、貧困、学業不振、劣悪な住環境、差別といった郊外の諸問題によって説明する都市社会学的な研究は、きわめて重要なものではあるが、それだけでは限界がある。なぜなら、それらの問題じたいは、都市暴動が出現し始めた1980年前後から現在にいたるまで一貫して存在するが、都市暴動が頻繁に発生し始めたのは90年代以降だからである。この現象の十全な理解のためには、郊外の諸問題にたいする当事者たちの行為様式の変容という点からも考察しなければならない。 研究一年目で、排除された移民の若者にとって異議申し立ての手段が社会運動から都市暴動に変容していった過程を集合行為論の観点から分析した。研究二年目は、1960年代に大量に発生した北アフリカからフランスへの移民の背景にある脱植民地化(とりわけアルジェリアの独立)を視点に入れて研究を行った。最終年度である2011年度は、都市暴動のメカニズムとプロセスとをアメリカやイギリスにおける人種暴動との異同も視野に入れながらさらに詳細に検討するための予備的研究を行った。 具体的な研究成果としては、都市暴動を社会学の理論的フレームワークの中に位置づけ説明可能にしたことを挙げることができる。フランス都市暴動は、郊外の剥奪状況から生起し、その剥奪状況への介入をもたらす点で、社会運動に比せられるべきものである。しかし、1980年代の郊外の若者による社会運動が限界に達した後、暴動は「別の手段による社会運動の継続」として選択されたのである。
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