本研究は、主に被差別部落の若者を対象として、「部落民」としての社会的アイデンティティが、学歴・職業等地位達成に与える影響について分析を行うものである。具体的には、(1)運動・行政による「部落民」としてのアイデンティティ形成過程研究、(2)部落の実態の変化に伴う「部落民」としてのアイデンティティ変容研究、(3)地位達成に与える「部落民」としてのアイデンティティの影響研究の三つからなる。最終年度となる本年度も各地で調査を実施しぐ論文等で成果をまとめた。 (2)部落の実態の変化に伴う「部落民」としてのアイデンティティ変容研究については、三重県・滋賀県・鹿児島県・福岡県などでの部落の若者を対象とした生活史インタビュー調査を実施した。これらの蓄積してきた生活史インタビューデータをもとに、近年の部落の状況は大きく変化しつつあるものの、若年層においてもアイデンティティは獲得され、継承されていることを明らかにした。インタビューの成果については、2012年度中に単行本としてまとめる予定である。 また、(3)地位達成に与える「部落民」としてのアイデンティティの影響研究については、部落の青年を対象とした質問紙調査結果をもとに、こちらにおいても「部落民」アイデンティティが部落解放運動によって獲得され、継承されてきた側面を明らかにした。しかし、地位達成との関連に関する検討については不十分であり、同時期に実施した、アイデンティティに関する項目を含む、奈良県の被差別部落女性を対象とした量的調査データとともに再検討を行い、2012年度内の論文化を目指す。
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