本研究は、人びとが土地に関わることで獲得してきた「正義(=正統性)」とそれを周りから注視する「公共性」のあり方について社会学的に分析することを目的とした。そして「環境正義」といわれる文化的な不公正と経済的な不公正の両者を統合するアプローチを目指した。 具体的には、三陸海岸の養殖、災害指定地域などの事例を対象にフィールドワークを行った。この調査によって、構造化された貧困をソフトに転換させる可能性を拓いたり、ある社会制度やしくみを通じて、生活困窮者が貧困から脱していく猶予や空間を確保することを、社会側がバックアップする制度を検証した。 今回の大津波によって壊滅的被害を被った漁業者が生産・生活基盤を失ったなかで、宮城県知事が打ち出した水産業復興特区は、漁業会社等の新たな経営組織体が入り、活発化させることは、一見受け入れてもよさそうな提案である。しかし県漁協は一歩も譲らぬ姿勢で無条件の撤回を訴えている。経済合理性とは異なる漁村や漁業の成り立ちや文化的側面さらには漁民の心性も含めて、宮城県の漁村を経済学的・社会学的・民俗学的観点から調査をし、日本の水産業の在り方を踏まえた復興の在り方を研究分析し、実践的提案を行った。 すでに2011年2月に商業出版として出した金菱清・東北学院大学震災の記録プロジェクト『3.11慟哭の記録―71人が体感した大津波・原発・巨大地震』(新曜社)の成果に倣い、学生の教育効果も睨みながら1年かけて共同調査研究したものを、学術的な価値を持つものとして、津波・原発被害を被った漁村と水産業の復興の在り方に関して14項目を網羅した出版物『千年災禍の海辺学―なぜそれでも人は海で暮らすのか』(生活書院)にまとめ出版することができた。
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