本研究は、欧米で文化生産に従事する日本出身の移住者を事例とし、「どのような要因により、トランスナショナル・アイデンティティ、あるいは日本人アイデンティティの構築・表現が促されるのか」という研究の問いを考察することを目的とする。初年度の21年度は、文献研究と調査を中心に行った。文献研究については、まず、トランスナショナリズムに関する最新の理論的動向をとらえた。つぎに、欧米におけるさまざまな国・地域からの移住者と文化生産、アイデンティティに関する先行研究を整理・検討し、日本出身の移住者のケースと比較検討した。 文献研究と並行して、文化生産に従事する日本出身の移住者を対象に調査を実施した。2009年7月に英国ロンドンでテキスタイル・デザイナー岸本若子氏、9月に米国ニューヨークでファッション・デザイナー青木美帆氏、11月に英国ロンドンでプロダクト・デザイナーの安積伸氏と画家のカイトサイコ氏と面会し、インタビューを実施した。生い立ち、移住の経験、現在の意識.活動・ネットワーク、作品に表現されるアイデンティティについて語ってもらった。その際、スタジオや展示会での観察や、資料としての作品の写真撮影を行った。さらに現地の日系人会で聞き取り調査を実施した。調査実施後、録音したインタビューのテープ起しを行い、インタビュー・テキストを作成して内容の分析を行った。以上のように、海外で文化生産に関わる日本出身の移住者のライフストーリー、アイデンティティの構築・表現に関する重要なデータを得ることができた。 上記の文献研究・調査結果をもとに、第82回日本社会学会年次大会において発表を行い、査読のある学術雑誌に論文を投稿した。2年目・3年目には、さらに調査を進め、調査結果を英語論文および学術研究書にまとめたい。
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