本年度は(1)日本国内での関連資料の収集と読解、また具体的な調査計画の練り上げ、(2)在外研究先のフランスで、現地調査の具体的な準備と実施というかたちで研究をすすめた。 (2)4月から7月までは、a.関連文献のレビュー、b.理論的枠組みの精錬、c.現地調査の準備(調査団体の選定、予備調査質問表の作成)を行った。作業過程において「移民と社会」研究会で具体的な問題点と課題について意見交換を行ったことが、特に質問表の作成と理論枠組みの精錬に大きく役立った。 (2)(1)で得た知見をもとに、8月下旬~9月中旬にパリ、アムステルダム、マドリッドにて、海外共同研究者であるアムステルダム自由大学ショパン准教授、マドリードコンプルテンセ大学ペレス研究員、フランス社会科学高等研究院博士課程ハリール氏との打ち合わせ、ならびに調査を予定している地域において事前調査を実施し、基礎データの収集に努めた。10月からは夏の調査で得たデータの解析を行い、三地域の共通点と相違点を整理して、比較分析の枠組みの構築を進めた。具体的には当該地区の現状を、社会・経済・民族・都市空間などの多様な側面から把握し、その地区の歴史的形成の過程を明らかにすることができた。国家や地方自治体がこれらと都市周縁層の集住地区の問題をどのように認識しているのか、またそれに対してどのような取り組みを行っているのかという問題意識の設定を行うことができた。この問題意識に基づいて、11月~2月には在外研究の所属先であるフランス国立社会争点学際研究所(IRIS)にて都市暴動、社会的排除の専門家と意見交換を行い、調査に関する助言を受けるのと並行して、パリ郊外オルネー市にて都市周縁層居住地区にて聞き取り調査と参与観察をすすめた。さらに3月にはアムステルダムにおいて10日間の現地調査を行い、海外共同研究員の協力を得ながら当該地区の自治体、学校、警察、住民、NPO関係者を対象に聞き取りを実施し、荒廃地区が地域社会においてどのように認識されているのか、またそれが政策にどのような影響を与えているのかの一端が明らかになった。
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