本年度は以下の二点を目指した。一点目は昨年度と引き続き、三国の荒廃地区の基本情報・データ収集を行い、共通点や相違点を整理して、比較分析の枠組みの基盤構築を目指した。具体的には当該地区の現状を、社会・経済・民族・都市空間などの多様な側面から把握し、その地区の歴史的形成の過程を理解する作業と、国や自治体がこれらの地区の問題をどのように認識しているのか、それに対してどのような取り組みを行っているのかを確認する作業を行った。二点目は、調査対象地とその周辺の地域社会との関係を調査し、「領土的スティグマ」の実態を明らかにした。具体的にはこれらの地区(とその住民)が周辺の地域(とその住民)とどのような関係にあり、これらの地区が地域社会全体でどのように認識されているのかを、メディア分析や住民の意識調査から考察し、「領土的スティグマ化」のプロセスを検討した。前半のフランス滞在期間中は、主要調査地であるパリ郊外の調査地区と近隣の住民に対して聞き取り調査を行った。さらに海外共同研究者と協議しながら、アムステルダムの基本情報の収集をすすめた。後半は調査データの整理と分析作業。またテープ起こし作業とデータの分類・分析を行った。平成二三年七月に繰り越して行った調査では海外共同研究者・協力者と会合をもち、データの分析・考察を行った。その結果、荒廃地区はその地区に固有の諸課題(貧困、失業、家庭崩壊、学業挫折、劣悪な住環境など)を抱えるだけでなく、地域社会において危険視されることによって生まれる新たな差別・弊害に直面していることがわかった。さらに、追加調査の必要について検討し、その準備作業を行った。
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