研究課題
本年度は、心理主義化とそれを支える感情労働の変節について検討を深めた。感情労働については、従来は疎外論の文脈で分析されがちであったのに対して,近年では感情労働へと人々が積極的に参与していく傾向が見られる。その源泉にあるのが、クライエントとの「人として」の交流を報酬と見なす心性と、感情労働を自己疎外と見なす心性との交錯である。本研究ではこれを感情労働の二重性と捉えかえした。そしてこの二重性の中でも感情労働に肯定的な意味を付与していくものとして、近年の「EQ」や「人間力」といったコトバが用いられる事により、人との繋がりの中に重要な意味があるといったように煽られる心性が広がりつつあることを示した。その成果として、本年度の業績「When emotional labour becomes'good'」や「感情を社会学的に考える」がある。今年度の成果として第一にあげられるのが、感情労働が変化しつつあることを指摘したことである。1983年にホクシールドがThe Managed Heartで初めてこの概念を提出した際の論点はサービス産業における労働疎外であった。それに対して、本年度の研究では、それとは反して、労働者が感情労働に楽しみを見いだすなかで積極的に身を投じる有り様を描き出した。言わば「幸福な疎外」(マルクーゼ)として感情労働が、広く労働と疎外という問題圏から描き出されるべきことを示したのである。第二には、それとセラピーの言説やEQといった心理学的な知とが密接な関係を保っている点である。心理学的な知が欲望されることの高度化が、心理主義を支える構図であることを示したのである。
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International Journal of Work, Organization, and Emotion 3-2
ページ: 174-185