研究概要 |
岩手県内を主な対象地として,生漆および漆器生産のパフォーマンスと生産に関わる人々の社会的ネットワークとの関連について調査を進めた。具体的には,(1)過去に漆木を植栽した農家をおもな対象として,漆木植栽の経緯,漆苗木の当時の入手方法,植栽後の管理方法,植栽当時の土地利用等について聞き取り調査を行った。(2)その結果,漆木そのものの生産性の変化のほかに,雑穀やタバコなどの漆以外の作物の生産性や生産条件の変化や,地域の就労条件の変化によって,漆木育成の経済・社会条件が変化してきていることが明らかになりつつある。(3)また,調査を進めるなかで,1980年代から90年代にかけて,この地域の多くの農家が漆木を積極的に植栽したことによって,現在の漆木資源の維持に結びついていることが,次第に明らかになりつつある。そこで,今後,この時期の漆木植栽に関わった関係者への聞き取り調査をさらに進める予定である。(4)この地域の1930年代における家と家との間の様々な社会関係,漆器を含む経済活動等について調査した記録資料を入手した。そこでこの資料の解読作業を進め,その一部を公表する準備を進めた。 今年度の調査を通して,漆木資源管理・利用のパフォーマンスとネットワークの変動との連関について検討するための材料がおおむね揃ったため,次年度は理論を踏まえて,両者の連関について分析を行う予定である。ただし,一部では,次年度も補足調査が必要である。
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