2010年度に行った調査研究は、以下の3点である。(1)結婚や育児等で雇用労働から退出する傾向のある女性のキャリア構築を支援するNPOへの聞き取りを行い、そのNPOが大阪市の母親学級を利用して2007年度から2009年度にかけて実施した妊娠期女性へのキャリアセミナーについて、情報を得た。NPO代表は、母親学級に参加する女性の多くが、その後のキャリア計画を持たずにすでに仕事を辞めてしまっており、方法の転換が必要となったという認識を持っていた。(2)その後、同じNPOが2010年度に開始した、女性一般に対するキャリアセミナーに関し、実際にセミナーに参加し観察を行うとともに、セミナー講師を務めるキャリアカウンセラーや、参加者に対し、聞き取りを行った。ここでは、キャリアカウンセラー本人が、出産後数年間にわたり「専業主婦」として雇用労働からは離れた経験を持ち、その後自治体やNPO等で女性のキャリアに関わる仕事へとキャリアを変更していること、こうした自己の経歴を、無業の期間も含めたキャリアとして、包括的にとらえていることが分かった。ここから、当事者が自らの職業キャリアをどのようなものととらえているのか、とらえるべきだと考えているのか、という主観的な側面を検討する必要があると考えるに到った。(3)国際比較の可能性をさぐり、家事・育児労働の外注化が進む香港で、子どもを持つ女性に対し聞き取りと質問紙による調査を行った。外国人家事ヘルパー(FDH)の雇用は、高齢者の介護や日常の家事、子どもの世話などに及んでいるが、母親たちが特に育児の面で、FDHに委託することに葛藤を覚えており、多くの女性が、やはり出産後に仕事の仕方を変更していることが明らかになった。(2)および(3)に関しては、2011年度も引き続き調査を行う予定である。
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