児童虐待への対応において適切で迅速な解決を得るためには、関連する様々な職種間の連携が必須である。しかし現実には、組織間の壁や職種間での認識の差異などにより、必ずしも十分な連携がとれていない。本研究では、スムーズな多職種間連携を妨げる一つの要因は、各職種同士の間に生じる「認識のズレ」にあると仮定し、この様相を明らかにすることを目的としている。具体的には、(1)児童虐待に関係する各職種の情報収集・処理(リスク認知)の特性を知る、(2)各職種のリスク認知に影響する要因を知る、といった2点の目的のもと、児童虐待に関わる様々な職種の被験者に対してアンケート調査を実施した。このうちある程度まとまった回答数が得られ、かつ業務内容が同種の職種をグループ化し、児童福祉司100名、児童福祉施設職員(児童養護施設・乳児院)75名、その他74名、の3群を分析した。その結果、(1)「要保護事例の発見・判断」というリスク事象に対し、児童福祉施設職員は他の職種よりも、注目する情報量が少ない、(2)児童福祉司では、虐待関係への従事年数が短いほど提示された情報に広く注意を向け、またその中でも保護者に関する情報(特に「親の内面描写」)への注目度が高い、(3)いずれの職種においても「直近で扱ったケース」の内容(時期、子どもの年齢)は、現在扱っているケースのリスク情報処理に影響を与える、(4)いずれの職種においても「性別」により虐待のリスク情報認知・処理に差があり、女性の方が、比較的幅広い情報に注目しながら状況把握を行い、かつリスク判断がシビアになる傾向がある、といったことが示された。児童虐待に関わる様々な職種の中の一部ではあるが、その職種に属する各自の持つ背景によりリスク認知にある一定の傾向の存在が示唆された。これらの特徴を互いが理解することにより、職種内、職種間のコミュニケーションの円滑化の手掛かりとなることが望まれる。
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