申請当時の研究計画では、当該年度は、現代の日本の貧困問題・社会的排除問題を、1990年代および2000年代における日本経済の構造変化を踏まえた観点から検討することを目的にしていた。しかし、前年度の病気療養で研究進行が遅れたため、若干の変更を行った。変更後、資料の収集が進んでいたイギリスのブレア=ブラウン労働党政権時代に対象を絞り、当時の社会政策に用いられていた社会的排除概念について、第一に理論経済学の観点から整理し、第二にそれを踏まえて、当時のイギリスの経済動態を踏まえて労働党政権の社会政策について検討することを目的に据えた。 ブレア=ブラウン労働党政権の社会政策の立案過程について検討し、その社会政策体系が理論経済学的にはニュー・ケインジアン・エコノミクスの考え方があることを示した。それを踏まえて、労働党の社会保障政策による貧困問題・社会的排除問題対策において、個人の職業能力の改善を目的とした取り組みが社会的公平性と経済的効率性との懸け橋としての役割を果たしているが、それらの政策の前提として、社会階級間の利害対立が存在しないような水平的な社会構造が想定されていることが分かった。これらの考察から、結論として、労働党の社会的排除概念にもとづく社会政策が、イギリスの経済構造の変化によって生じた階級間対立や社会動態を踏まえていないという欠点があるとの結論に至った。
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