ドイツの最低生活保障制度について、特に2005年1月施行のハルツIV法によって新設された、稼得能力を有する者への最低生活保障制度である「求職者基礎保障」制度の特徴について考察した。ここにおいて、この制度は、就労への努力と引き換えに給付を実施する、というワークフェア的発想のみに基づくものではなく、その就労が必ずしもそれ自体で生活に足る十分な所得を得られるものであることを前提とせず、所得の不足分は公的給付で補うという、ベーシック・インカム的発想をも兼ね備えた制度であると結論づけた。 また、上記のような具体的な制度に関する考察と並行して、ドイツ社会政策・経済政策の重要な思想的基盤である「社会的市場経済」概念についても、戦後におけるその展開を考察した。社会的市場経済の本質である「市場的効率性と社会的公正の両立」に関する、両者の両立のバランスをめぐる解釈について、主要な論者の名前を冠して、オイケン型(市場的効率性を重視)、ミュラー=アルマック型(社会的公正を重視)、エアハルト型(両者を重視するものの、社会的公正を市場的効率性によって実現すべく、再分配型の社会政策から、自助を重視し、一次分配への参加を推進する社会政策への移行を推進)の三つが区分されうるとした。そして、これらのうち、昨今においてはエアハルト型が政治的にも支持され、それに則った政策(2001年年金改革、ハルツ改革など)が実施されている、と主張した。
|