本年度は、ドイツの最低生活保障制度について、現役世代に対する制度(求職者基礎保障と社会扶助)と高齢世代に対する制度(公的年金保険と「高齢期および稼得能力減少時における基礎保障(困窮した高齢者への扶助)」)に区分して考察した。 まず、求職者基礎保障(稼働能力を持つ困窮者への扶助)に関しては、2013年冬にドイツでの現地調査を実施した。その結果、求職者基礎保障の受給者を削減するには、失業者に対するきめ細かな就労支援と並んで、「上乗せ受給者」(就労しながら求職者基礎保障を受給する者)への適切な対応(住宅手当・所得控除などの拡充、受給者の家族構成に応じた柔軟な給付形態の検討)が必要であることを知った。 次に、公的年金保険については、国民皆年金ではなく、しかも所得比例年金であることから生じうる低年金者・無年金者への保障がどのように構想されているかを調べた。その結果、一定以上の保険加入期間を有する者に対し、年金の算定要素の一つである「報酬点数」の値を一定程度引き上げる、という形での改革が志向されていることが明らかになった。 そして、これらの最低生活保障制度の内容が、(2008年度に整理した)社会的市場経済における望ましい社会政策の3つの型(オイケン型、ミュラー=アルマック型、エアハルト型)のうちどの型の影響を受けているかを考察した。そして、稼働能力を持たない者への再分配は十分に行いつつも、稼働能力を持つ現役世代に対しては就労促進による「再分配への依存」から「一次分配への参加」への移行を重視し、老齢世代に対しては、長期的に一次分配に参加していた者への相応の再分配の保障が企図されていることから、エアハルト型(一次分配と再分配を重視するものの、再分配の対象者を一次分配に参加させる手段としての社会政策を志向する)が影響していると結論付けた。
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