本研究は、基本所得とフェミニズムの交差に立脚しながら、基本所得がジェンダー秩序に与えうる影響を検討し、それをフェミニスト社会政策として練り直していくための予備的作業を行うことを目的としている。 基本所得(ベーシックインカム:以下、BI)をめぐる議論は近年盛んになりつつあるが、その多くは未だにジェンダーに無自覚だと指摘される。他方でフェミニズムの側も、BIを「家事労働への支払い」と矮小化して捉え、さほど検討しないまま批判的に捉えている向きが多い。こうした事情を反映してか、BIとフェミニズムの交差はこれまであまり論じられてこなかった。その一つの理由に、「口止め料か、解放料か」と言われるような、BIの女にとっての両義性を挙げることができる。それは、性別分業、自律的な所得保障へのアクセス権、女の劣等なシティズンシップ等、多岐に渡って論じられてきた。本研究では、これら多岐に渡る論点を整理し、BIとフェミニズムという二つの主張が生産的に交差していくための予備的考察を行った。とりわけ今年度は、性別役割分業に対するBIの含意を、既存の制度の中で「女」が経験してきた具体的な不利益との対比において明らかにしたり(2011『ベーシックインカムとジェンダー』、2012『労働再審』)、既存の社会政策をめぐる議論の中に位置づけたり(2011『社会政策の視点』)した。
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