本研究の目的は、障害者自立支援法(以下、自立支援法)施行による中途障害者の障害の意味づけの変容プロセスを、ライフコースの視点から明らかにすることである。従来の研究(田垣、2007等)は、受障期間が長くなるにつれて、障害者が、障害に対する意味づけについて、多元的な基準をもつようになってくることを明らかにしている。だが、このような研究は、障害者自立支援法といった障害者福祉制度によって、個々の障害者が、日々の生活と制度の変化をどう関連つけているのかという考察をしていない。 本研究では、約10年前にインタビューをした男性の脊髄損傷者に,この10年間の様子と,仕事などの日中活動,機能回復への希望,障害者同士の関係性に関する意味づけの揺らぎを,あらためて尋ねた。データをKJ法に準拠して分析した。特に平成24年度は,協力者毎の分析と図解化,文章化,および,全ての協力者に関する分析結果の統合をした。その結果,前回から今回までのインタビューの期間に生じた出来事をもとにした,ライフストーリーの再構成が確認した。また,障害者施策に関する変化は,一部の話し手においては,彼らの社会的アイデンティティと密接に関与していた。これらを踏まえて、本研究では、意味づけの揺らぎに関するモデルを考案しようとした。 以上の分析を進めるために,ライフコース,障害学,発達心理学関連の学術雑誌、生涯発達関連の文献を再度点検したり,日本心理学会や日本質的心理学会におけるライフストーリーや語りに関するセッションに参加したりすることによって,分析や考察上の理論基盤を強化した。旧インタビューの再分析,及び,今回のデータの分析に関する論文執筆をし,精力的に投稿を試みたものの,採択までには至らなかったので,今後も,内外の学術雑誌に早急に完成させる予定である。
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