本研究は、文化財を保存、公開しようとする文化財保護の立場と、障害のある人にあらゆる機会を提供しようとする障害者福祉での立場には差異があることを認め、それらを踏まえて文化財保護より機会提供へと一歩踏み込んで、現状での城郭のバリアフリー整備の可能性について検討を行う。まず、全国の城郭における文化財の保存管理と実際のバリア及びバリアフリー整備の現状を明らかにする。そこで、全国の城郭管理者を対象に、現状のバリア及びバリアフリー整備の状況、今後のバリアフリー整備の意向等についてアンケート調査を実施した。 多くの城郭において車いすで自走可能なバリアフリー整備は実施されていなかった。城郭のバリアフリーを困難にしている要因として、文化財保護と城郭の特性(地形・機能)があげられた。特に地形についてはバリアフリー整備は物理的に困難であることが指摘された。復元や保全整備計画において多くの城郭でバリアフリーについて検討が行われていたが、復元では復元の精度の上昇に伴い、文化財と同様にバリアフリー整備を困難にしていることが示された。城郭は文化財にあたる部分の保全を最優先としつつも、それ以外で来訪者の期待に応えようとしている姿勢が見られた。バリアフリー整備のために必要なこととして、国の基準や法整備や潤沢な整備費用について指摘された。今後の課題としては、城郭の特性を踏まえ、障害のある方にどのように城郭を見せようとしているか、またはどのような整備で障害のある方々のニーズを担保しているのかを明らかにする必要がある。
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