本研究は、文化財を保存、公開しようとする文化財保護の立場と、障害のある人にあらゆる機会を提供しようとする障害者福祉での立場には差異があることを認め、それらを踏まえて文化財保護より機会提供へと一歩踏み込み、現状での城郭のバリアフリー整備を進める方策を明らかにする。まず、文化財の指定状況及びバリアフリー整備について、城郭の事例調査により、バリアフリー整備の現状と管理者、来訪者、そして障害のある人によるバリアフリー整備に対する意向を把握する。そこで、昨年度実施した全国城郭調査を補足する内容に加え、文化財の保存整備の実施過程におけるバリアフリー整備について現地踏査および聞き取り調査を実施した。また、障害のある人によるバリアフリーのニーズと城郭観光の阻害要因について現地聞き取り調査を実施した。 結果、城郭の地形、文化財の指定状況により、バリアフリー整備の対応は異なっており、バリアフリー整備の基準は見られなかった。個々の城郭で個別の対応を行っていた。また、特徴的なバリアフリー整備の事例として、(1)松江城での階段昇降車いすでの移動支援というソフトによる対応、(2)姫路城の「平成の大修理」の期間中、車いすでアクセスが出来るような段差解消などのバリアフリー整備というハードによる対応が挙げられる。今後どのような過程で対応が可能となったか、文化財保護法による現状の変更との関連性を調査する必要がある。また、車いす使用者やバリアフリーツアーセンター等への聞き取りでは城郭に対するバリアフリー整備のニーズが把握できなかった。城郭へ車いすを使用して訪問するという発想自体がないという意見もあり、潜在的なニーズをどのように把握するか、課題が残った。
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