本研究は、元ホームレスの生活保護受給者に対する福祉事務所による支援のあり方を目的とするものである。本年度は、第1に、昨年度実施した居宅生活に移行した元ホームレスを対象とした実態調査の分析を引き続き行い、学会報告を行った。第2に、無料低額宿泊所入所経験者の実態調査を実施した。 近年、ホームレスを入所させ、生活保護を受給させて保護費の多くを徴収する無料低額宿泊事業が「貧困ビジネス」として社会問題化している。これら宿泊所における処遇内容はブラックボックス化されがちであり、その実態解明を目的に、入所経験者(現入所者および元入所者)計138名に対する聞き取り調査を行った。調査結果からは、宿泊所における劣悪な処遇内容が明らかになるとともに、本研究課題のテーマである福祉事務所による支援のあり方に関しても重要な知見が得られた。すなわち、入所者の約50%は福祉事務所による紹介で入所していること、多くの入所者は一般住宅への転居を希望しているものの福祉事務所がなかなか認めていないことなどである。これらのことは、宿泊所の実態が社会問題化している一方で、ホームレスに対する生活保護行政が宿泊所に依存する形で運用されていることを示している。 年度当初は、福祉事務所に対するヒアリング調査を中心に研究を実施する予定であったが、昨今における無料低額宿泊所問題の社会問題化に鑑み、昨年度に引き続き当事者の実態分析を行った。本年度の調査によって得られた知見を踏まえ、次年度は福祉事務所の支援のあり方に関する研究を行いたい。
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