平成22年度は、高齢者福祉施設の職員による虐待行為の発生と繰り返しに影響を与える要因の探求という本研究の目的に対して、文献研究、インタヴュー調査、アンケート調査を実施した。まず文献研究では国内外の先行研究と本研究の計画の関連性を検討し、また高齢者福祉施設の職員のストレスやバーンアウトもしくは福祉労働の感情労働の側面、施設内の上司と部下の人間関係や施設内の組織風土などに関する文献を検討した。そしてインタヴュー調査では、施設長などの管理職者に対して、不適切なケアに対する認識やその防止策などについてインタヴューを行なった。その結果、不適切なケアを最重要の問題と認識しており、弁護士などの外部講師による勉強会や施設内での委員会などで問題を検討しているとのことであった。ただし意識的な不適切なケアではなく、結果としての不適切なケアに関してはあまり問題視していない傾向にあった。例えば利用者の安全のために抑制帯は使わないが、エレベータを利用者が操作できないようにしていたり、容易には車いすから立ち上がれない構造の車いすを使用していたりしていた。このことについて利用者の安全を第一に考えるとのことであった。また不適切なケアをどのように認識しているのかについてのアンケート調査を実施した。その結果、従来通り、不適切なケアとして身体的虐待、心理的虐待、言語的虐待、経済的虐待、ネグレクトなどを不適切なケアとして認識している一方、立ち上がれない車いすを使用するなどして、利用者の行動を制限することなどを不適切なケアとはあまり認識していない傾向があった。 今後、どのような組織風土や個人的な要因が上記の結果に結びついているのかなど、更に検討が必要である。
|