本研究では、裁判員が実質的・適切に評議に参加するために必要な下記の2つの要素を明らかにすることを目的としている。本年度は、昨年度実施した調査の一部データの不足を補うために、模擬評議実験を追加して行い、さらに、事案と最終弁論の内容を変えて、最終弁論自体に効果がないのか、事案の種類や工夫の仕方で効果があるのかを検討した。弁論の内容だけが異なる2つのシナリオに基づいて3人の模擬裁判官による合計6評議体の模擬評議実験を実施し、録音録画を行った。これらの評議における裁判員・裁判官の発話の内容を現在検討中である。これらの研究を進めることで、弁論が裁判員の判断に与える影響について検討することができると考えられる。 また、この模擬裁判と並行して、裁判員の役割についての認識に関する質問紙調査を行った。その結果、一般の人が、裁判員をどのような役割の存在として理解しているかが明らかになった。この結果に基づき、役割に関する説示が判断に与える影響についてシナリオ実験を用いた調査を行った。その結果、裁判員としての役割を強調したとしても、市民感覚を強調したとしても、同じように、裁判官の説示に沿う判断が増加することが観察された。この結果は、普段の日常において判断する場面と違う場面であるという認知が、日常とは異なった判断を促進する可能性を示唆している。 これら2つのアプローチからの研究を通して、裁判員の判断に影響を与える制度的な要因が明らかにできると考えている。
|