研究概要 |
本研究では、裁判員が実質的・適切に評議に参加するために必要な下記の2つの要素を明らかにすることを目的とした。その2つとは(1)分析的な裁判官との評議において、裁判員が、その思考形式を損なわず、議論可能な形式で発言することを促進する要因。(2)裁判員の「不適切な」考えを低減する要因であった。 本研究では、特に弁論に注目し、弁論の効果について検討した。32名の大学生が4人一組で法科大学院の修了生1名とともに評議体を構成した。8つの評議体は、物語的な弁論を読む群と、物語的な弁論に法的な解説を加えた弁論を読む群の2つに分けられた。しかし、評議体としての評決に、統計的に有意な条件差は認められなかった。また、弁護士の弁論への言及は少なく、その主張内容が全体として信憑性があるかを検討した後は、弁論に含まれる法的情報と、弁護人の主張を切り離して、独自に、手元にある情報に基づいて、物語を作り上げる様子が観察された。これらのことから下記の3つの暫定的結論が考えられた。 1.陪審研究とは異なり、本研究の結果から、弁論が評決に与える影響は大きいとはいえない。 2.ただし、評議前の判断は有意ではないが、平均値に開きがある。 3.しかし、その影響は限られている。弁護人の主張は裁判官の法的な論理の免疫として機能するのではなく,判断の際に用いる思考枠組み,すなわち分析的な思考モードを駆動に影響する可能性がある. 逆に、事前の十分な説明と役割の提示は、裁判員の行動に影響し、「不適切な」考えを低減する可能性がある。 また、このような直接的な研究に加えて、本研究を通して得られた、法学と心理学の協働可能性について、公開シンポジウムを開催し、広く、関心のある人々に知識を提供した。
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