本研究の目的は、ポジティブあるいはネガティブな自己認知がそれぞれどのような状況において目標達成行動を促すのかを解明することである。促進焦点が活性化している場合はポジティブな自己認知によって利得接近行動が増進されるだろう(仮説a)、一方、予防焦点が活性化している場合はネガティブな自己認知によって損失回避行動が増進されるだろう(仮説b)という2つの予測を検証するため、以下の研究を行った。研究1では制御焦点の活性化と自己認知の感情価を実験的に操作し、予防焦点を活性化したときには自己認知のネガティブさを高めた方が損失回避傾向を強く示すという結果が得られ、仮説bが支持された。研究2では研究1の手続きを改変し日常的な文脈(友人関係)において自己認知を操作したところ、促進焦点を活性化したときには自己観のポジティブさを高めた方が利得接近傾向を強く示すという結果が示され、仮説aが支持された。これらの結果より、自己制御過程において自己認知のポジティブさ/ネガティブさがフィードバック機能を果たし、利得接近行動や損失回避行動を調整していることが示唆された。このようなフィードバック機能は状況に応じた柔軟な行動調整に役立っており、結果として効率的な目標達成を実現させているという可能性も考えられる。ただし、研究1・2ともに仮説の部分的支持に留まっているため、今後の研究において実験手続きを改善するなどして引き続き検討を進めることが必要と考えられる。
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