研究課題
近年、脳機能イメージング技術の進歩に伴い、他者の痛みに反応するような情動的共感性の神経基盤が明らかにされつつあるが、共感性のもう一つの側面である認知的共感性に関しては、他者理解を可能とする心理メカニズムの本質をめぐり、議論が継続している状態といえる。本研究は、行動予測に関する「シミユレーシヨン理論」と「理論理論」という哲学で用いられている区別を導入することで、相手と同じ感情を喚起する想像的共感と、視点取得のそれぞれが、異なる社会的適応課題の解決に役立つことを明らかにすることを目的としている。想像的共感に関しては、他者の表情などを通じて自動的に相手と同じ感情を喚起する他者志向的情動反応との関連が予想される。本研究では、想像的共感の予測プロセスが、シミユレートされた情動反応を用いる、すなわち、他者の置かれた状況に身をおくことで生起する自身の感情を相手に投射するという「シミユレーシヨン」を用いることで相手の行動予測を可能にし、集団内に特化した適応課題の解決に役立つ可能性を検討する。平成21年度は、高度な「シミユレーシヨン」を用いて他者の行動を正確に予測する実験参加者を特定することを目的とした、囚人のジレンマゲームを実施した。この実験では参加者に同時ゲームと順次ゲームを選択できる機会を与えており、順次ゲームを選択し、先に協力行動を選択した参加者を「シミユレーシヨン」を巧みに用いる参加者として捉え、平成22年以降の実験で再度招集し、他者志向的情動反応との関連を検討する予定である。その準備として、「シミユレーシヨン」を通じて相手の感情を取り込む程度に関する、表情情報探索時の眼球運動を用いた測定方法の開発に取り組んできた。ただし、眼球運動測定装置使用には熟練したスキルが必要となるため、平成21年度はプレテストを繰り返している段階である。
すべて 2009
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America 106
ページ: 11520-11523