我々の態度対象への態度(好き嫌い)は、事物(商品や人物や企業名など)と評価的情報(なんらかの感情価を有した環境内の刺激)との単純な対呈示によって、ある程度まで受動的に形成されることが明らかになっている。我々は1日平均30回以上もの宣伝・広告に晒されていると言われるが、この態度形成過程は宣伝・広告のメカニズムの基礎である。このことについては申請者自身の過去の研究において検証され、社会的重要性も指摘されている。 本研究の目的は、人が意識的努力を行うことにより、この態度形成過程を自己制御できるか検討することであった。そこで本実験では、人が肯定的あるいは否定的な評価的情報に対して意識的に注意を向ける働きに注目した。実験では、態度対象となる無意味図形を呈示し、その直後に肯定的評価的情報と否定的評価的情報の両方を等確率で呈示した。その際に、ある無意味図形の直後の肯定的評価的情報に対してのみ随意的反応を行う(キーを押す)学習条件と、その無意味図形の直後の否定的評価的情報に対してのみ随意的反応を行う学習条件を比較した。学習の直後に、その無意味図形に対する態度を測定する為の顕在的測度・潜在的測度による態度測定を実施した。その結果、先の学習において、肯定的評価的情報に反応した条件では、否定的評価的情報に反応した条件に比べて、その無意味図形に対して肯定的な態度を持っていることが明らかになった。 以上の実験結果から、対象と時間的に近接した肯定的評価的情報あるいは否定的評価的情報のいずれかに対して意識的に注意を向けることにより、その対象に対する肯定的あるいは否定的態度を形成させることが明らかになった。この発見は、人が自分自身の意識的努力によって、事物に対する態度を制御することが可能であることを示している。
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