本研究の目的は、小学生が教室内で行われる一斉授業に固有の談話に適応する過程について、3年間の予定で解明を行うことである。特に、会話する集団内の参加役割の多様性に注目し、そうした多様性についての認識や役割の取得能力がどのように発達するかという点に注目する。計画の初年度である平成21年度は、調査協力校の確保と、教師・研究者ネットワークの確立、およびパイロット的な調査を行い、平成22年度に適応過程の縦断的な調査を実施するにあたっての準備を進めた。 授業の場にいる限りにおいて、児童の耳には教師や他の児童の発言が「聞こえている」はずである。他方で、漫然と「聞く」のではなく、むしろ能動的に自分が「聞き手」であることを他の参加者に示すこと、発言の内容を正確に聞き取ること、批判的に吟味することも行われていると予想される。しかし、授業での相互行為における「聞き手」の具体的な行動については資料がない。そこで本年度は「聞き手」としての児童の行動、特に視線に注目した分析を行った。 パイロット的な調査として、調査協力校1校の小学1、3、5年生各2学級に参加し、国語の授業を対象として、ビデオ観察および発話の収集を7月と12月の2度にわたって実施した。 その結果、次のことが明らかとなった。小学1年生は主に教師を、3・5年生は発言する児童や机の上に置かれた教科書やノートを相対的に長い時間見ていた。このことから、学年間で聞く対象が異なっていることが示唆された。また、教師の視線の配分との関連性を調べたところ、教師が発言する児童をよく見る学級は、児童たちも発言する児童をよく見るという相関関係の存在が明らかとなった。以上から、聞き手としての児童の行動形成における教師の役割の重要性が浮かび上がったと言える。
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