研究概要 |
本研究は,小学1・3・5年生による一斉授業を対象として,授業に固有の談話に適応する過程について横断的に明らかにすることを目的として実施された。その際,話し合い活動に児童が「聞き手」として参加する仕方について,児童や教師の「視線」を手がかりとした分析を行うこととした。 今年度は,昨年度までの2年間で得られた映像・音声資料の分析に費やされた。協力校1校の3学年各2学級,1時間ずつの国語の授業の映像・音声資料から抽出した3分間ずつのシークエンスについて,教師と児童の視線の向き先について1秒ごとのタイムサンプリングを実施し,コーディングを行った。その結果,次の3点が明らかになった。(1)教師の視線配布行動は,発言する児童を頻繁に見る,発言していない児童を頻繁に見る,黒板を頻繁に見るという3つのスタイルに分けられた。(2)児童の視線配布行動には,同学年内で一貫して共通する側面と,同学年内でも学級間で一貫しない側面とがあった。(3)教師と児童の視線配布行動の相互行為的な関連については,教師を見ていた児童が教師の見る対象に視線を向け直すという連鎖と,教師を見ることなく自律的に視線を動かすという連鎖の,少なくとも2つの連鎖パターンがあった。 本研究の意義としては2点指摘できる。第一に,授業中のコミュニケーション様式の発達過程について素描できた点である。従来は,1~2の学年だけを取り上げた研究が多かったために学年間の比較が困難であった。本研究は低・中・高学年の横断的比較を通して,発達の道筋に見通しをつけることができた。第二に,授業実践への示唆である。特に低学年においては,教師の視線の向きが児童の視線の移動と密接に連動していたことから,教師にとって視線などの非言語行動について自覚しながら授業を行うことの重要性を指摘することができた。
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