本研究は障害のある子をもつ母親の語りをもとに、母親としての生涯発達と親子関係の変容プロセスを明らかにしようとするものである。平成23年度は、ある地域でピアカウンセリングに参加している母親たちの語りの分析を中心に研究を実施した(1)。また、その比較対象として、必ずしも障害があるわけではないが、子育ての初期に大きな困難に直面するという意味では経験を共有していると思われる、超低出生体重児の母親に着目し、その語りを分析した(2)。 (1)障害のある子どもの母親たちが地域で行っているピアカウンセリングの場においてフィールドワークとインタビューを行い、その語りを分析した。その結果、(1)障害をもつ子どもの母親としての発達は、親としての自らの生き方について深く考え、選びとっていくプロセスであり、(2)そのプロセスは、障害のあるわが子だけでなく、さまざまな世代の障害のある子をもつ他の親たち、教育・福祉関係者や行政等わが子にかかわる人々、ピアカウンセリングにおける仲間、他の家族成員など、周囲の人々との相互作用が織り込まれたダイナミックなものであるということが明らかになった。 (2)超低出生体重児の母親5名の語りを分析し、その結果を(1)と比較しながら考察を行った。障害や出産、子育てを取り巻く社会的状況の大きな変化の中で、母親としての生き方が多様化・変化していること、その一方で問題の不可視化が生じ、そのために母親同士の連帯が難しくなっていることが示唆された。 上記の研究成果の一部は、論文として発表した。また、研究を通して得られた質的研究、特に語り研究全般に対するメタ的な考察の端緒として、コメント論文を執筆した。
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