研究概要 |
本年度は2つの目的を掲げて研究を実施し,主に以下のような成果を得た。 (1)議論可視化キットをより自然な文脈で使用できるよう改善する これまで開発した議論可視化キットは,マグネット・シートや粘着シールのコマをトラック上に貼り付けていくことで議論プロセスを可視化する方式をとっている。この方式には準備物が多く必要なため,20名程度までの授業では利用できるが,大人数の授業ではコストや時間がかかりすぎる。この点をふまえて,大人数の授業で利用可能なトラックシートと名付けたワークシートを作成した。また,授業参加者同士の相互評価を促進するための相互評価シートも作成した。これら紙ベースのツール群に加え,現在,スマートフォンで利用可能な簡易アプリケーションの開発に着手している。 (2)問題解決型議論過程モデルを用いて大学生が典型的に苦手とする要素を特定する 議論力トレーニングの機会を設定している大学の授業(受講者67名)において,議論可視化キットを用いた議論訓練を実施した。3回おこなわれたセッションのうち,1回目と3回目に出現した議論過程モデルの要素(「意見」「例」「理由」「回答」「質問」「付け足し」「感想」「疑問」「反論」「定義」「目標」「発言促進」「要約」「方法」)の頻度を比較した。その結果,「意見」「理由」「回答」は出現頻度が上昇した一方,「疑問」「方法」は出現頻度が低下した。その他の要素については明確な変化が見られなかった。このことから,個別に発言し,それに応じるといった1対1のコミュニケーションは容易に促進可能であるが,グループ全体に働きかけて議論を戦略的に展開するスキルについて促進することは難しく,多くの大学生が苦手としていることが示唆された。
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